業務トピック

相続放棄は判例≠家庭裁判所(受理されやすい)

あまり知られてない家庭裁判所での相続放棄運用

司法書士の間でも意外と知られていませんが、家庭裁判所の相続放棄実務は、最高裁判例をそのまま適用する形では運用されていません。なぜ、知られていないかですが、ほとんどの書籍は、相続放棄が最終的に最高裁で認められているか否かという観点から記載されており、入り口となる家庭裁判所での実務運用を記したものはあまりないのが実情だからです。ですので、最高裁判例の結論のみからして、相続放棄は無理だろうと考えてしまいがちです。多くのサラ金やクレジット業者の担当者も、かなり勉強している方でも家庭裁判所での運用は知らないであろうと思われます。

家庭裁判所の方が最高裁の基準より緩い

さて、何が違うかですが、簡単に言いますと、家庭裁判所の相続放棄基準は、最高裁のそれより、かなり緩いといえます。

これを理解するには、最高裁は判決を出すのと、家庭裁判所は相続放棄を受理するという違いを理解する必要があります。

家庭裁判所での相続放棄の受理は、「判決」ではありません。これは、ある特定の借金なりを承継するか否かについては、判断していないということになります。じゃぁなにをしているかですが、諸説ありますが、準裁判説という説が唱えられています。準裁判説は、ざっくり言いますと、全く中身を見ないわけではないが、白黒どっちか微妙という場合には、とりあえず通そうというようなものです。とりあえず通したあと、特定の借金なりの負担があるかどうかは、どうしても本当に受理が有効だったか白黒つけたいという債権者が「その借金について請求する裁判」で「判決」を出してもらえばいいので、入り口の段階である家庭裁判所での受理では、そんなに厳しくしないでいいだろうというようなものです。

家庭裁判所の基準=明白性基準説(または非限定説)

そして、家庭裁判所の、「このような全く見ないわけではないけど、とりあえず通そうという基準」を明白性基準説と呼びます。これは、よくよく白黒つけないとわからんなということではなくて、「そら、無理やわ」というようなものは受理しない(=明白に無理)が、それ以外は受理する方向で考えるということです。非限定説というのは、次の限定説とは逆の立場で、少し知ったらもう3か月開始ではなくて、ある程度知らないと3か月スタートしないというようなものです。(それを知ったなら放棄を検討するような情報得られておらず、ないものと信じていたなら、一定の場合には救済しようというもの)                                             ですので、相続放棄申述の実務では、いかに明白でないかを示すべく、色々な事実を挙げて、相続放棄を家庭裁判所に認めてもらおうとする作業が求められることになります。

最高裁の判断基準=限定説

一方で、多くの書籍に出てくるような最高裁の判断基準は、これより相当厳しいものです。いくつか論点がありますが、その中でも有名な考え方として限定説というものがあります。限定説は、知ったときから3か月の知ったときとはいつと考えるかということについての基準なのですが、これは、一部分でも知ったら、3か月が原則始まるよというものです。この考え方は第三者である債権者を保護して取引を安定させるべきだという前提があります。最高裁のこの基準は、特定の借金が相続されるかについて債権者から訴えがあった場合には、地方裁判所や簡易裁判所も採用して判決しています。つまり、家庭裁判所以外の裁判所は、白黒つけることを求められているので、とりあえず通そうではなく、白黒つけるべく厳しめの基準で臨むことになるのです。

翻って家庭裁判所での相続放棄実務と実社会での意味

最高裁のこの基準のことはそれなりに知られていますが、多くの家庭裁判所がこのような明白性基準説(非限定説)に立っていることはあまり知られていません。知らない人から見れば、どっちも裁判所ですので、相続放棄が受理されたなら、これはもう放棄で確定だなと思ってしまいます。ですので、相手方に弁護士が就いたなら話は変わってきますが、そうでないなら、相続放棄受理がされたと知れば、それ以上の請求はあきらめることがかなり多いでしょう。受理された以上、裁判しないとひっくり返すのも困難でしょうから、勝つか負けるかわからないし、弁護士費用もかけたくないし、そもそもとりあえずの受理だなんて知りませんから、受理されれば、事実上解決できることも多いわけです。

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