登記に協力してくれない方がいる場合、登記に協力したという意思表示をしたことにする手続きとして登記手続きを求める訴訟があります。
抵当権の抹消登記を例として考えてみます。
通常、抵当権抹消登記をするには
1 解除証書など
2 登記済権利証または登記識別情報
3 登記義務者の申請書への捺印または委任状の交付
が必要となります。
また場合によっては、抵当権者が死亡している場合には、相続人が誰かを証明する書類(戸籍など)が必要になります。住所の変更などがあれば、その資料も必要になります。
登記手続を求める訴えの法的性質
所有権に基づく妨害排除請求権、債権的登記請求権(契約に基づいて消す)、物件変動的登記請求権の3種がありますが、学説上はこの3つですが、実際の登記では、どれとも言い難いもののあったりします。登記実務では、あまり気にされていませんが。
抵当権抹消登記訴訟の「訴訟」上のポイント
さて、抵当権抹消登記訴訟は、その抵当権の登記があることが問題として、その抹消を求める訴訟です。債権的登記請求権の構成も可能ですが、所有権を妨害していることになるので、この法的性質を所有権に基づく妨害排除請求権として以下考えます。
この訴えを求めることができる前提として
1 所有権があること
2 相手名義の抵当権登記があること
という2つの前提が必要です。
所有権がないと、邪魔だから消せと言えませんし、邪魔な登記が存在しないと訴える意味がないからです。
所有権があることを証明するためには、本来、その取得経緯を証明しないといけませんが、「前の所有者から買った」ということが証明できても、前の所有者がそもそも所有していたのかという問題が出てくるため、その所有の起源を追求しようとすると、その証明は事実上不可能です。
そのため、本来事実のみを主張すれば権利が発生するという考え方を法律は採るのですが、事実をどこまで遡っても権利の起源に答えはないかもしれません。そこで、しょうがないので、権利自体をお互いが争わないなら、争わない時点より前のことは、もう証明はいいことにするということにしています。これを権利自白と言います。
抵当権抹消登記訴訟の「登記」上のポイント
ここが曲者なのですが、訴えというのは、請求の趣旨という結論と、なんでそうなるかという根拠である請求原因の二段階に分けて行います。
登記請求訴訟では、この結論部分が、普通の登記の解除証書、登記済権利証(登記識別情報)、申請書への捺印または委任状の交付部分に当たります。
もちろん、まず請求の趣旨が上記3点の内容を満たすべくその抵当権抹消登記手続きに必要なことを命ずることを求める内容でないとそもそも登記には使えません。
さて、この点で問題になることはほとんどないのですが、問題は請求原因の記載の方です。
ここについて裁判所にて認定がありますと(欠席判決も含むとの下級審裁判例あり)、さきほどの3点以外の部分についても、登記に使えます。
住所の変更や、相続の証明などがそれに当たります。
ここの認定があれば、住所の変更や相続の証明書類は判決書があれば要らないことになります。
なぜ、問題になるかですが、裁判所としては、請求の趣旨を被告が認めたら、請求原因について検討する必要がない(というかできない)という考えになっているという問題です。
裁判にて事実認定をした上で、判決になれば、「裁判所が事実認定をしたので」、その事実(請求原因)に基づいて登記を行うというのが法務局の立場ですが、裁判所が事実認定していないなら、事実関係については、別途証明書が必要であると考えます。
要は、裁判所が事実認定した上での判決という二段階構成ならいいのですが、被告が結論部分だけを認めただけで終わってしまっていると、事実は不明だということになります。
訴訟上、これを認諾というのですが、被告が認諾してしまうと、事実認定がなされず、請求の原因に書いたところは、法務局は全部無視になります。結論部分しか登記に使えません。
なので、この場合、住所の変更や相続の証明書類が別途必要になってしまうことになります。
これらが行政書類で証明できるときは、それを出せばよいのですが、そういった書類がない場合は、補強書類をつけることで通常の登記はなされてます。補強書類は色々なので、必ず次の書面がいるというわけではありませんが、その一つとして、相手方からの上申書(要は一筆もらう的なものです)という書類が必要になることがあります。しかし、裁判になっているような間がらで、一筆もらうのは不可能です。
なので、請求原因について裁判所の認定が取れてないと、補強資料が足りず、登記ができない恐れがあります。
この点が、怖いところであります。