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裁判 同時履行の抗弁権と民法575条2項

同時履行の抗弁権には、存在効果と行使効果の2パターンあります。

抗弁「権」というくらいなので、本来的には行使効果が原則的ではありますが、存在効果のパターンを使う場面が極めて多いので、実際は、検討することになる機会としては、存在効果の方になることが多いです。

行使効果

行使効果の場面というのは、つまりは権利抗弁として主張する場面です。
権利抗弁ですので、事実を主張するわけではない為、主張共通の原則が適用されません。
従って、相手方がそのようなことを言ったとしても(言わないでしょうが)、権利抗弁を主張したことにはなりません。

存在効果

一方、存在効果の場面では、事実を主張した結果、それに付随して存在することになりますので、事実上主張共通の原則が適用されます。この結果、相手方の同時履行の抗弁権の権利主張を待たずに、本来、再抗弁になるべき事実の主張をする必要があります。これを俗に「せり上がり」と呼びます。
同時履行の抗弁権の存在効果が出てくる場面は、色々ありますが、基本的には双務契約である場面です。
例えば、売買契約に基づく売買代金支払い請求権は、売買の事実(民法555条)を主張すれば足りますが、さらに遅延損害金まで請求する場面で考えてみます。

売買については、民法575条2項の適用がある為に、その対象物の引き渡しを要求されます。
つまり、「売買合意」、「履行期の経過」、「弁済の提供」、「引き渡し」、「損害発生とその数額」が要求されます。
民法575条2項は、法定利息説と遅延損害金説がありますが、遅延損害金説が採られています。
この為、履行遅滞に基づく損害賠償請求権の特則として、「引き渡し」を追加して要求していると考えられる為、売買代金支払い債務の履行遅滞に基づく損害賠償請求権として、「売買合意」、「履行期の経過」、「弁済の提供」、「損害の発生とその数額」が要求され、さらに575条2項で「引き渡し」「も」必要になります。

売買は、原則的には即時期限が到来しているので、支払期は本来的には抗弁になります。
ただ、この段階で、遅延損害金を請求するにあたり、すでにこの段階で、双務契約であることがばれてしまってるので、反対債務はどうした?という話になります。これが同時履行の抗弁権の存在効果です。
その為に、売買合意に加えて、その支払期が過ぎており、さらに反対債務の弁済の提供をしたことも要求されます。加えて民法575条2項で、引き渡しを「追加」して要求されます。


動産が対象であれば、引き渡しに弁済の提供が吸収されるので、事実上、引き渡したかどうかになりますが、不動産が対象の場合は、不動産の引き渡し(事実的に利用できるようになる=575条2項)に加えて、弁済の提供としての登記手続き債務の弁済の提供が必要になります。正確には、登記と不動産引き渡しについての弁済の提供に加えて、実際に不動産の引き渡しをしたことという方が理屈的には整理された形になると思います。


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