業務トピック

相続登記と所有権確認の訴え

法律は遺産分割の成立に書類を要求していない

遺産分割協議自体は、書面性を要求しませんので、相続人全員による協議自体があれば、その効力は生じます。従って、協議が成立していれば、実体法上は、相続人全員が共有しているのではなく、遺産分割協議によって成立した者が所有していることになります。

相続登記では書類が必要

ところが、法務局ではこうはいきません。実体上、そうなっていようが、それが書面になっていないと、審査しようがありません。法務局は形式的審査権といって、書類上でしか審査できないことになっています。なので、口頭で協議が成立しているといっても、相続登記はできません。

遺産分割協議書に捺印せよという訴訟はない

そうすると、遺産分割協議書が本来必要なわけですが、それに協力してくれない人がいる場合は、実体上、協議が成立しているのだから、これに捺印せよ(実際は捺印を強制的にできないから、その意思表示をせよという訴え)と言いたくなります。
しかし、そのような訴訟はできません。
実体法上、所有権はすでに移っていますし、改めて、意思表示をさせる法的な意味がないからです。

相続登記は所有権確認の訴えの判決・和解でもって行う

こうなると、遺産分割協議書自体を作るということはできません。
じゃあどうするかということですが、遺産分割協議は成立したので、私が所有者であることの確認を求める訴えを起こすことになります。この訴訟では、裁判所は非のみ説を採っていますが、法務局は事実上のみ説を採っていますので、訴状の請求原因には、のみ説にならって、相続人全員を記載して、全員によって協議が成立した結果、私が所有者であることの確認を求めることになります。
この訴訟は必要的共同訴訟にはなっていません。他の相続人について、ハンコを押してくれているなら、相続登記にそのまま使えます。押してくれなかった人についてのみ所有権確認の訴えをなせば足ります。
必要的共同訴訟ではないので、既判力は原告被告間にしか及びませんが、そもそも遺産分割協議書自体、それぞれ作成して構わないので(一つの書面にする必要がない)、押してくれなかった人だけ判決書等で相続登記を行うのだと考えればよく、捺印に協力してくれた人全員を相手取った裁判を起こす必要はありません。
したがって、普通の相続登記の中で、実印を押してくれなかった相続人の分だけ遺産分割協議書・印鑑証明書の代わりに判決書・確定証明書、和解調書を添付し、他の人は通常通りの書類を添付するということになります。

最近の記事

相続登記に必要なものとは?

支払督促と時効

相続放棄は3か月経ったらダメなのか?

PAGE TOP